「ふき」の役割
袷仕立ての着物は、袖口や裾に「ふき」があります。
チラッと見える八掛の色がなんとも素敵です。
「ふき」はおしゃれなだけでなくて、表地を守る役割を果たしています。
着物を長い間着ていると袖口や裾が汚れたり擦り切れてきますが、袷の着物の場合はまず「ふき」が擦り切れて、その後に表地が痛みます。
表地が痛む前に「ふき」が痛むので、お手入れの時期だと気がつくことができます。
そろそろ八掛を取り替えようかなとか、洗い張りをしてお仕立て直しをしようかなとか考えることができるのです。
もし表地の裾が擦り切れてしまったら、切り落としたり縫い込んだりしなければならないので身丈が短くなってしまうこともあります。
袷にするか単衣にするか
最近は冬でも室内は暖かいので普段着なら袷で無く単衣でよい、というご意見を時々お聞きします。確かに私も普段着は自由に快適に楽しむのが一番だと思っています。
ただ、仕立てをしている立場から言うと、袷仕立てにするメリットは暖かいか涼しいかという問題だけではないのです。
裏地は表地を守ってくれているからです。
ペラペラとした頼りない?表地も、袷仕立てにすれば裏地に支えられてピシッとした着やすい着物になることがあります。
また、着物は巻きつけて着るので腰のあたりの背縫いや脇の縫い目に負荷がかかるのですが、袷仕立てだと布地の痛みが少ないです。
何より、裏地は汗や皮脂などの汚れからも表地を守ります。
なお、袷仕立てと単衣仕立ての他に、袷着物の胴裏を一部または全部省略した「胴抜き」仕立てもあります。袷と単衣の中間のような仕立てです。
もちろんどのようなお仕立てをするかは、お客様のお好みが最優先です。
お客様のご希望に添いながら大切なお着物を長く楽しんでいただけるように、それぞれの布地に適したお仕立てもご提案していけたらと思います。