鯨尺(くじらじゃく)

「鯨尺」(くじらじゃく)とは、和裁用のものさしのことです。

現代でも多くのプロの仕立て屋は着物を鯨尺で仕立てています。
お客様の寸法をcmで測ったとしても、わざわざ鯨尺に変換して仕立てているのです。(※鯨尺ではなく曲尺で仕立てている地方もあります)

鯨尺の1分は約0.38cmで目盛り幅が大きいため印が付けやすく、着物の仕立てを合理的に進めることができます。鯨尺の1尺は約38cmで、反物の幅くらいと想像していただければよいでしょうか。

和裁を始めた頃は鯨尺が使いこなせるか不安だったものですが、今となってはメートル法の方がピンとこなくなってしまいました。和裁技能士同士だと「髪の毛5分くらい切りたい」とか普通の会話です。。何事も慣れですね!

上から1尺ざし(鯨尺)、2尺ざし(鯨尺)、2尺ざし(鯨尺、メートル法併記)

鯨尺の物差しは昭和34年(1959年)のメートル法の改正により一時その生産と販売が中止されました。しかし、多くの方の努力により和裁における鯨尺の必要性が再確認され、昭和53年(1978年)より法的規制が解かれて再び生産と販売が再開されました。
19年間もの長期間、鯨尺の生産販売が合法的にできなかったなんて、大変なことだったと想像します。古いものさしを大切に使っていらしたことでしょう。

和裁における鯨尺の必要性が全国的に再確認された経緯においては、永六輔さんや小沢昭一さんら著名人によるメートル法と尺貫法の併用運動の力も大きかったことと思います。
永六輔さん著の『クジラとカネ売りますー計量法現行犯は訴える!!』(1977年)には、

「曲尺で建てた家に鯨尺で縫った着物でくつろぎ、一升びんで一杯やったりするのが、日本の文化でないのか」

という一文があり、本当にそうだと合点しました。ものさし、尺度、道具というものは文化の一部なのです。
現代の和裁技能士として当時様々な活動をしてくださった諸先輩方に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

左:永六輔著「クジラとカネ売りますー計量法現行犯は訴える!!」(1977年)
右:当時のお芝居のチラシ「純情二重奏」(大笑い計量法伝伝)

そんな大切な鯨尺ですが、現在は和裁をする人も少なくなっていて需要が圧倒的に減っています。このままだと生産してくださる方がいなくなってしまうかもしれません。
鯨尺は着物の寸法を測るのに無くてはならない道具です。着物をたたむ時にも便利に使えます。
お着物好きな方はぜひご家庭に1本備えて応援していただけると嬉しいです。

「補綴(ほてつ)」のお仕事

和裁の教科書の最後の方に「補綴(ほてつ)」の章があります。
国語辞書によると「補綴(ほてつ)」とは、破れや不足を補いつづることを言うそうです。

和裁における「補綴(ほてつ)」も同じ意味で、布地を接ぎ合わせたり穴の開いたところを修理することを言います。

先日、めずらしく補綴のお仕事をいただいて、昔教わった記憶を頼りに何とか仕上げてみました。

布目を通して巻き縫いと割り縫いしました

かけつぎをもっと勉強してみたいと思いました。
もし、かけつぎの職人さんのワークショップなどがあれば是非参加したいです。

秩父太織の単衣着物

秩父太織の単衣着物 袖下の丸みを整えているところ

秩父太織の単衣着物。ずっとずっと欲しかったこの自分の着物をとうとう仕立てることができました!!!

この秩父太織の反物は、秩父産の繭から座繰りで糸を引き、手で糸を染め、地機で手織した、正真正銘100パーセント日本産秩父産の織物です。全ての工程をHandweaver Magneticpole工房内で行っていて、この時代に残っているのが奇跡のような布です。

写真でどこまで伝わるかわかりませんが、手に取ると、とても軽くてしなやかなのに力強い生命力を感じます。
身に纏えば優しく体を包んでくれます。

今回は単衣で仕立てました。
この布は絹ですが、単衣で仕立てると家庭で水洗いできます。
一生物の普段着物として本当におすすめです。

[秩父太織 Handweaver Magneticpole]
 http://magneticpole.jp/

秩父太織の単衣 着て出かけるのが本当に楽しみです!