背縫いの力、縫い眼の力

八掛の背縫いの縫い目

古い言い伝えですが、背縫いの縫い目には着物を着ている人を守る力があると聞いたことがあります。

昔々、背中の首の下(ちょうど背紋を入れる位置あたり)に身体と外界の出入り口?があると考えられていたそうです。
うっかりするとそこから魂が抜け出てしまったり、悪い気(病気など)が中に入り込んでしまうことがあると。

大切な人、着物を着る人を守りたい。
そんな気持ちで着物を縫った昔の人たちは、着物の背縫いの縫い目が背中の「眼」として、悪い気が体に入ってこないようにジロリと睨みをきかせてくれると考えるようになったようです。
(赤ちゃんの着物である一つ身には背縫いが無いので、その代わりに背守りをつけます)

迷信深くない私も昔の人たちの祈りに思いをはせて、背縫いを縫う時は気持ちを整えて縫うように心がけています。(あまり心を込めたら迷惑かもしれないので、サラッと縫います、、)

着物の仕立て屋が広幅の洋服生地から着物を作る時も背縫いを付けたがるのは、背縫いがある方が着付けがしやすいということだけでなく、こんな理由もあるのでした。

「ふき」のお話〜袷にするか単衣にするか

袷の袖口の「ふき」

「ふき」の役割

袷仕立ての着物は、袖口や裾に「ふき」があります。
チラッと見える八掛の色がなんとも素敵です。

「ふき」はおしゃれなだけでなくて、表地を守る役割を果たしています。

着物を長い間着ていると袖口や裾が汚れたり擦り切れてきますが、袷の着物の場合はまず「ふき」が擦り切れて、その後に表地が痛みます。

表地が痛む前に「ふき」が痛むので、お手入れの時期だと気がつくことができます。
そろそろ八掛を取り替えようかなとか、洗い張りをしてお仕立て直しをしようかなとか考えることができるのです。

もし表地の裾が擦り切れてしまったら、切り落としたり縫い込んだりしなければならないので身丈が短くなってしまうこともあります。

袷にするか単衣にするか

最近は冬でも室内は暖かいので普段着なら袷で無く単衣でよい、というご意見を時々お聞きします。確かに私も普段着は自由に快適に楽しむのが一番だと思っています。

ただ、仕立てをしている立場から言うと、袷仕立てにするメリットは暖かいか涼しいかという問題だけではないのです。

裏地は表地を守ってくれているからです。

ペラペラとした頼りない?表地も、袷仕立てにすれば裏地に支えられてピシッとした着やすい着物になることがあります。
また、着物は巻きつけて着るので腰のあたりの背縫いや脇の縫い目に負荷がかかるのですが、袷仕立てだと布地の痛みが少ないです。
何より、裏地は汗や皮脂などの汚れからも表地を守ります。

なお、袷仕立てと単衣仕立ての他に、袷着物の胴裏を一部または全部省略した「胴抜き」仕立てもあります。袷と単衣の中間のような仕立てです。

もちろんどのようなお仕立てをするかは、お客様のお好みが最優先です。
お客様のご希望に添いながら大切なお着物を長く楽しんでいただけるように、それぞれの布地に適したお仕立てもご提案していけたらと思います。

寒い日には地直し

冬の寒い日にはアイロン仕事がはかどります。アイロンをかけていると部屋全体がポカポカしてきて暖かくなります。

先日、大切な反物の地のしをしました。
大好きなHandweaver Magneticpole 「秩父太織」(ちちぶふとり)の地機の反物です。
とうとう自分の秩父太織の着物を縫えることになりました!

秩父太織の着物
「地直し」の工程 秩父太織の反物

お仕立て前の反物はアイロンをかけて「地直し」(じなおし・じのし)をします。
「地直し」の目的は(1)地の目を整える、(2)地詰めをする、の2つです。

(1)地の目を整える
布は縦糸と横糸が交わって織られています。この縦糸と横糸ができるだけ直角に交わるように整えます。地の目が歪んだままだと綺麗に仕立て上りません。

(2)地詰めをする
布は時間の経過で少しづつ詰まって(縮んで)いくものが多いです。仕立て上がってから大きく詰まると寸法が小さくなってしまったり、表地と裏地の釣り合いが悪くなってしまいます。これを防ぐため、仕立てる前に布を詰まらせておきます。スチームアイロンも使いますが、風合いを損なわないように注意します。

秩父太織の反物は目が詰んでいて湯通しもしっかりされてるので、地直しをしてもほとんど全く詰まりませんでした。
仕立てるのが楽しみです。
お客様のお仕立ての合間に仕立てるので少しずつになりますが、お仕立ての工程をブログにアップしていきたいと思います。

秩父太織 Handweaver Magneticpole
http://magneticpole.jp/